閒宵人の涙
閒宵人の涙 07


 私の声は、ケイの種付けのおかげか、普通に話している程度だとこの別荘の建物周辺までしか響かないらしい。男であるケビンの声は、低く抑えているだけで建物の周囲にしか響かない。

「感覚が鋭くなったケイでそれなら、普通に話す分には大丈夫だろう」
 少し大きな声を出すと、建物から十メートルほど離れた場所でも頭に響くらしい。セックスの時の嬌声は、三十メートル離れても届くらしい。その実験のために、ここぞとばかりのケビンに嫌と言うほど喘がされた。セーフルームの声は、たとえ絶叫でも建物の外に出ると響かないらしい。

 ただ、試しにとケイの種付けを数日行わず、その効果が切れると、囁き声ですら五十メートル以上離れていても響く。
 逆にすぐ近くにいると、頭に響いているのか耳に届いているのかが曖昧になるらしく、出会った瞬間、ケイが一瞬で私を閒宵人と判断できなかったのはそのせいらしい。
 特に耳元で囁かれると、普通に耳に聞こえているかのように感じるらしく、ケイは耳打ちするかのように耳のそばで話すと嬉しそうに目を細める。

 刑務所のような高い塀が張り巡らされているのは、建物から百五十メートルほど先。高いところが苦手なここに棲むものたちは、余程のことがない限り、足がかりもなく垂直にそびえ立つ塀を乗り越えては来ないだろう。
 それでも、万が一知らぬ間に効果が切れている可能性も考えて、普段から話し声すら抑えている。



 セーフルームへの入り口は、装飾された壁の一部が隠し扉になっている。装飾の一部を押すと、まるで忍者屋敷のように、人ひとりが通れる幅の扉が現れる。扉の部分とそうじゃない部分の壁を指でこつこつと叩いてみても、その音に変化はなく、妙に感心してしまった。
 日本人に合わせてなのか、この別荘の持ち主に合わせてなのか、扉の幅は六十センチほど、高さは百八十センチほどで、背の高い二人は通るときに苦労している。

「どうしてこんなに狭いの?」
 そう聞けば、侵入者が一度に入ってこられないよう、あえて狭くしてあるらしい。本当に忍者屋敷みたいだ。

 そこから地下へと繋がる階段は、足音がたたないよう分厚い絨毯が敷かれ、その幅も高さも扉の大きさと同じく狭い。大きな体躯の男が、身体を縮めるように階段をおりていく様は、前から見ても後ろから見てもちょっと面白い。

 そのセーフルームは、三つの部屋に分かれている。
 その全ての天井に採光と換気のための穴が開いており、鏡を上手く使ってその光を拡散しているせいか、昼間はそれなりに明るい。換気がどのような仕組みになっているのかは聞いてもよくわからなかった。けれど、放射能などに汚染されても大丈夫なようになっているらしい。

「ただ、動力がない今は、ただの換気口だ」
 外気が汚染されているわけではないから別にかまわないそうだ。

 リビング、ダイニング、キッチンがひとつの空間に纏まっている広い部屋があり、その隣の寝室には、シングルベッドが四つ。それをふたつ並べてひとつの大きなベッドにして使っている。リビングと寝室の間にはお風呂や洗面所がある。
 寝室とは反対側にあるのは、四つのアップライトピアノみたいなものが壁際に置かれた、真四角な部屋だ。たくさんの大きなコンピューターみたいなものが並んでいるものの、動いてはいない。中央に丸い大きなテーブルが置かれた、まるで作戦本部みたいな部屋だ。

 このピアノの鍵盤が、外に張り巡らされている鳴子の役目をするらしい。
 九十度ごとに四方向に区切られ、それがさらに七分割される。その分割されたひとつひとつにドからシまでの音があてはめられ、建物から数メートルごとに区切られ、それは音の高低があてはめられているらしい。音が鳴るとその該当箇所に侵入者ありということらしい。

「どんな人の別荘だったの?」
「金持ちの道楽だな。それ系の映画を見て、自作したらしい。それを俺たちに公開して自慢しているあたり、ただの道楽なんだろう」

 この別荘に来てすぐに、ケイが該当箇所に移動しながら、全てが機能しているか確かめている。数カ所壊れていたらしく、ケビンが見よう見まねで直していた。小動物ほどの重さがかかるくらいでは鳴らないらしい。どちらにしても、ここには人しかいない。人以外に生きるものはない。植物さえすべて枯れ果てたミイラのような残骸だ。
 ほかにもレーダーや防犯カメラ、色んな感知システムが揃っていたらしい。ただ、電気がないので今は動かない。

「道楽でこれだけの設備?」
「暇だったんだろう。金持ちの考えていることは、俺には理解できん。どこかに金か死体でも隠してるんじゃないか?」

 上にあるゲストルームも、さびれる前はさぞ豪華だっただろうと思われる部屋ばかりだった。ヨーロッパ風だったり、オリエンタルだったり、旅館みたいな和室があったり、モダンだったり。ほかにも色んなプレイルームがあって、まあ、ちょっとエッチなことに使う部屋もあったりして、さすがに当時そこまでは案内されていなかったケビンが呆れていた。

 ケビンと私をセーフルームに隠して、ケイは単独で敷地の外の様子を確認しにも行っている。このあたりは私有地だったせいか、閒宵人が現れることもなく、それを捕食するものたちも現れない。
 ここに移って来てからというもの、それまでとは違い、ずいぶんと暢気なものだ。あれほどあった恐怖や不安、危機感も薄れてくる。

 それでも、ケイとケビンはルーチンワークのように毎日塀の中と外を欠かさず見回っている。訓練も欠かさない。真似して同じようなことをしていると、すかさずケイに止められる。どうしても私に筋肉はつけさせたくないらしい。
 逆にケビンは最低限の体力をつけさせようと、暇さえあれば建物の中を歩き回らせる。ついでのように行く先々で掃除を行い、見違えるほどきれいになった。

 ケビンが見付けた、からっからに乾いた石鹸をお湯でふやかしてなんとか使えるようにし、それでケイの服を洗った。彼の服は比較的状態のいいものを行く先々で見付けては、その都度着替えてきたらしい。そのせいか、いつも埃っぽかった。
 きれいに洗い上げた服を身につけたケイは、目を丸めて着心地のよさに驚いていた。今まで何を着てもごわごわしていたらしい。



 それまでとは違い、どこか穏やかな日々を過ごしているからなのか、種付けのためのセックスが、快楽を追求するセックスに変わってきた。ケイが快感を覚えたことも大きい。

 ケビンが私も知らない私の快楽のスイッチを探し当て、それをケイに実践で教える。
 先日も、自分でも知らなかった、陰核を剥き出しにされた。

「まだミューには刺激が強すぎて痛みがあるかもな。舌先で、転がすように優しく柔らかく刺激してやれ」
 乾いた指先では痛かろうと、それまでずっと直接触ることは避けてきたと言われ、あれほど刺激の強い場所なのに、まだそれは本当の刺激じゃないと聞かされ、慌てた。
 今でも十分気持ちいいのに、これ以上は怖い。

 それなのに、背後から両足を広げるようにケビンに抱えられ、ケイが入り口あたりを指先で広げながら、ケビンの指示通りその部分を少し指先で押し広げると、初めて見る小さな粒のようなものが顔を出した。そんな場所、自分でもまじまじと見ることなんてない。
 外気に晒されただけで、ぞわっと背中に何かが走る。ケイの息がかかり、それだけで体がびくっと震える。

「あっ、や、ちょっと待って」
「ミュー、大丈夫だ、いつも俺に触られて気持ちいいだろう?」
 そうケビンが言い終わるや否や、ケイの舌先がその粒に触れた。

「んあぁ……」
 ケイの舌先が、ちろちろとかすめるように触れていく。ほんのわずかに舌先で触れているだけなのに、今までケビンに指先で触られていたときよりもはっきりとした鋭く強い刺激。
 背がしなり、その喉元を仰け反らす。びくびくと跳ねる体に、抑えようと思っても抑えられない声。その声に煽られるかのように、ケイの舌先の動きが速くなる。

「膨れてきた」
「ああ、乳首と同じだ。かたくなっただろう?」
 ケビンが背後から顔を回し、乳首を咥えた。舌先でケイのその動きと同じように、ちろちろと舐められ、時に強く吸われ、舌先で押しつぶされる。
 まるで見せつけるかのように乳首を咥えながら笑うケビンは、壮絶にいやらしかった。
 その動きを真似たケイに吸い付かれたとき、快感が鋭い痛みに変わり、小さな悲鳴が上がる。

「まだミューには早いな。しばらくは舌先だけで慣らしていこう」
 抱えていた足が開放されると、ケビンの指が中に入り込んできた。

「すごいな。中はぐちょぐちょだ」
 ケビンの指が中を刺激する。ケイの舌先が外を刺激する。それは、強烈すぎる快感だった。

「やっ、なんか、漏れちゃいそう」
「大丈夫だ。そのまま出せ。どうせ出ないだろう?」
 強すぎる刺激に、尿意を覚える。どうせ出ない、その言葉にどこかでほっとした瞬間、何かがほとばしるような、開放されたような、そんな感覚と一緒に体ががくがくと悦楽に震えた。

 ケビンやケイのものを咥えることを教わり、お尻の穴にすら刺激を与えられる。
 自分の体が、どんどん淫らに変えられていく。
 始めは痛かった陰核への刺激が、痛みが薄れていくのと引き替えに、鋭く強烈な気持ちよさに変わっていく。
 鈍い痛みを伴った奥深くを突かれる刺激が、重くいつまでも続く極致的な快感へと変わっていった。