閒宵人の涙
閒宵人の涙 04


 今、私たちは首都圏を離れ、地方に移動している。首都圏や地方という言葉がここであてはまるのかはわからない。
 それまで情報収集を兼ねて、王と呼ばれる組織が集まる都市部を転々としていた二人は、私を生かすために人のいない場所に移ることを決めた。

 閒宵人は、人のいる場所に自然と引き寄せられる。
 それはそうだろう。いきなり訳のわからない場所に放り出されたら、まず自分以外の人を探す。人が集まるだろう都市部を目指す。それが命の終わりになるだなんて考えもしない。
 ここに棲むものたちは、ただ寄り集まって、閒宵人が自らやってくるのを待つだけでいい。

「何度か来日したことがあるんだよ。そのときに一度招待された別荘が要塞みたいで面白かったんだ」
 ケビンは過去に何度か来日したことがあるらしい。その際、随行していた要人と一緒に訪れた、とある別荘を目指している。

「山の中の広大な私有地に隠されるように建てられている。そこなら、しばらくは穏やかに暮らせるはずだ」
 ケビンは前々からそう考えていたらしく、一度ケイと一緒に下見にも行っているらしい。

 そこには、地下にセーフルームがあり、いざとなればそこに逃げ込むこともできる。おまけに隠し通路も発見し、その先はいくつか分岐しながら山の反対側まで続いていたらしい。一体どんな人の別荘だったのか。

 どちらにしてもケイがケビンの年を越える頃には、そうするつもりだったらしい。その数年先の予定を繰り上げただけだと、二人は同じ笑顔を見せた。
 私が彼らの足手まといになっているのは間違いない。たまたまケイに拾ってもらえたから、私はこんな場所でも生き延びている。そうじゃなかったら……。ケイと出会った直後に聞こえたロケット花火のような音は、きっと私を見つけた合図だ。

「ありがとう」
 こういうとき、申し訳ないと詫びるより、ありがとうと感謝を伝えなさい。そう、育てられた。
 元の世界で私はどうなっているのか。考えたところでわかる訳もないことに、苛立ちと不安を覚える。父や母には、こんな場所に迷い込んでほしくない。こんな殺伐とした場所に迷い込むのは、私一人で十分だ。



「ケビンはいつこっちに来たの? こっちに来たときじゃなくて、あっちの最後の日」
 伝えられたそれは、私が最後に知る日付と同じだった──。

 到着したコンクリートの建物は、別荘というよりも本当に要塞みたいだった。
 そこに残された家電や設備は、どれも見慣れた姿をしている。これまでに見た何もかもは、それまでの日常がいきなり荒廃したかのようで、どれもがひどくさびれていても見慣れた姿をしていた。
 その中のひとつを目にしたケビンが、一言「懐かしいな」ともらした。その目線の先には去年世界同時発売された家庭用ゲーム機。

 二十八年前に迷い込んだと聞いていたから、てっきりケビンは二十八年前の人かと思っていた。そんな人が去年発売されたばかりのゲーム機を懐かしむはずがない。

「どういうことだ」
 ケビンも、彼がこっちに迷い込んだ二十八年後から、私が迷い込んだと思っていたらしい。

 すぐそばにあるケイの腕に縋り付く。
 突然、自分の存在が得体の知れないものに感じた。身体が小刻みに震え出す。
 不意に肩を掴まれ、そのままケイに抱き寄せられた。まるで子供をあやすかのように、背中をぽんぽんと軽く撫でるかのように叩かれる。その軽い振動が、怯える心と震える身体を鎮めていった。

「大丈夫か?」
 ケビンの気遣わしげな声に、顔を上げ小さく頷けば、私の目の中を覗き込んだケイが、そっとその腕の中から開放してくれた。
 時々ケイの行動から、ケビンがどうやってケイを育てたのかがわかることがある。
 きっとケイも子供の頃、ケビンに抱きしめられ、背中をぽんぽんされ、落ち着かせてもらったのだろう。

 結局、どういうことかなんて考えてもわからなかった。
 時空の歪み。そんなものがあるのかはわからない。けれど、そうとしか思えなかった。



 この建物の周りには、十メートルはありそうな有刺鉄線付きの高い塀が巡っている。それはまるでテレビで見た刑務所のようだった。その内外には至る所に侵入者対策の鳴子のようなものが設置されているらしい。
 万が一、電気の供給がストップした場合にも対応できる建物になっていたらしく、ソーラーシステムや自家発電も備え付けられていたものの、それらはやはり使えなかった。

 ケビンが言うには、電気という概念自体が存在していないかのようで、それは電気に限らず、ガスや石油などのエネルギー全てにいえるそうだ。車や家電はそこら中にあるのに、その動力源が見付からない。
 手でぐりぐりと回して電気を作る、防災時の小型発電機なども、分解して調べてみても、壊れているわけでもないのに、電気が発生しない。それはソーラーバッテリーでも同じだったらしい。



 背後からケビンに胸を揉みしだかれ、その先をくにくにと捏ねられる。首筋に吸い付かれ、舌で耳をなぶられながら、厭らしい言葉をいくつも囁かれる。
 声を出さないよう堪えれば、喉の奥から鼻に抜け、んんっ、と厭らしくも聞こえる音がもれる。
 身体をくねらせ、息を上げ、興奮と快感に身体中が熱くなる。声を上げないよう息を詰め、耐えきれず吐き出す吐息さえも、艶を含んで熱を孕む。

 中に入り込んだケイに両手で腰を掴まれ、勢いよく突き上げられた。ケビンの片手がその結合部に伸びると、執拗に陰核を指先でくにくにと弄り始める。
 たまらずケイの首に手を回し、必死にしがみつく。声が上がりそうになり、手が塞がっていたケイが顔を寄せ、その口の中にくぐもった声が飲み込まれていった。

 初めてのキス。今までキスはしたことがなかった。
 ここに迷い込むまでも、ここに迷い込んでからも。

 セックスは何度もしているのに、キスさえしたことがなかった。そんな、自分の中の常識では異常なことをしているのに、その全てから目を背ける。
 生きるための種付けと、快楽を求めて二人の男に抱かれる。そんな、それまでの日常では起こり得ないことだからこそ、むしろ簡単に目を背けられた。

 まるで本能に従うかのように、合わさった先にあるケイの口内に舌を滑り込ませる。彼の舌に舌を絡めれば、それに応えるかのように舌を絡められる。

「うっ、わ、なんだ、これ」
 唐突にケイが唇を離し、その動きを止めた瞬間、中に入り込んでいたケイがむくむくとその大きさを変え始めた。

「やっ、なに、大き……」
「うっ、美羽、動くな!」
 そう言ったまま動きを止めたケイは、何かに耐えるようにその顔を歪ませた。

「どうした、ケイ」
「これが、快感か? 急に感覚が、強くなった」
 中にいるケイがそれまで以上に大きくなっている。ゆっくりと引き抜かれていくケイの先のくびれが、それまで以上に中を擦り、あまりの気持ちよさに、耐えきれず声がもれそうになる。

「や、声、出ちゃう」
 その瞬間、ケイが一気に奥を突き上げた。背後からケビンの手が口を塞ぐ。背をしならせ、顎が上がり、くぐもった唸り声がケビンの指の間からもれていく。

「ああ、そういえばここは完全防音だったな。ミュー声出していいぞ。思いっきり啼け」
 ケビンの手が外された途端、耳を塞ぎたくなるような、淫らな嬌声が上がった。ケイの腰の動きが一層激しさを増す。

「ダメだ、とまらない」
 上擦った声を上げながら、ケイが腰を打ち付けてくる。一気に強烈な快楽を叩き込まれ、あっという間にその背をしならせ絶頂すると、その反動でか、ケイもその精を吐き出した。



 微睡みの中聞こえてきた声。

「すごいな。全ての感覚が鋭敏になっている」
「何が原因だ?」
「わからない。急に……もしかして、美羽と舌を絡めたからか?」
「唾液か? まさか、口移しなら唾液が体外に排出されるってことか?」
「もう一度試してみる……って、美羽寝てるな」

「ん、起きてる」
 聞こえていた声に応え、気怠さを押して起きあがろうとすれば、暗闇の中、危なげない足取りで近付いて来たケイが、すかさずその膝の上に抱え上げてくれた。触れ合う素肌が気持ちいい。

「美羽、もう一度いい?」
 頷けば、ケイに口を塞がれた。滑り込んできたのはケイの舌。膝の上に乗せられ、舌を絡め合っていると、ケイの股間が膨らみ始める。
 その様子を眺めていたケビンが一言。「今までよりでかいな」そう小さく呟いた。

 今日初めて、三人とも全裸でセックスをしている。今までは万が一を考え、ほとんど服を脱ぐことなく行われていた。
 セーフルームを寝室と決め、入り口を完全に封鎖しての行為。
 暗闇の中とはいえ、ここに迷い込んでから闇に目が慣れたのか、それなりに見えるようになった。ケイやケビンはきっともっとはっきりと見えているはずだ。
 こういう感覚的なことは、年をとらない体でも覚え込んでいく。それこそ快楽も。

 だからこそ、初めて全裸になることがすごく恥ずかしかった。ゆっくりと脱がされて、戸惑いの中触れた二人の肌の感触や体温は、恥ずかしさよりも、心地よさや安らぎの方がもっとずっと強かった。
 直接肌に触れるということが、こんなにも心を落ち着けてくれるとは思わなかった。

 聞こえたケビンの声に一旦唇を離し、ケイの股間に目をやれば、今まで知るケイの二回りは大きくなっていた。

「もしかして、いままでちゃんと勃起してなかったんじゃないか?」
 そのケビンの声に、思わずケイのものに触れた瞬間、その大きな身体が大げさなほどびくっと震えた。その様子にケビンがくつくつと笑い出す。

「覚えたてのガキみたいだな、ケイ」
 にやりと笑いながらケイをからかう。

 おかげで私は、敏感になった感覚に慣れる必要があると、何度もケイに付き合う羽目になった。その合間にケビンにも付き合い、喘ぎ続け、嬌声を上げ続けて声がかれ、身体が限界を迎え、気を失うように悦楽の海に沈んだ。