異世界人にのっかれ!
壁の向こうからイケメン五人
夏 第二話


 春休みにうちで民泊した人たちが、「イケメンのいる宿」という呟きを、イケメンたちの写真付きでSNSにアップしてくれたおかげなのか、ゴールデンウィークは満室ならぬ、満家御礼となった。
 好意だとわかってはいても、イケメンにプライバシーはないのかと、ちょっと可哀想になる。あと、異世界人もちゃんと写真に写るんだなぁって思ったりもした。

 何より可哀想なのは、その背後に写り込んだせいでイケメンたちと比較される父だ。
 母なんて、くしゃみする寸前の哀しくなるほどのアホ面が写り込んでいて、「もうお嫁に行けない!」とトチ狂ったことを叫びながら、それはもうしつこく騒いでいた。
 あれを見て母だとわかるのは家族くらいだと思う。それほどのアホ面が全世界に晒された。嫁どころか生きていけなくなるレベル。

 今までは平日の利用者なんてほとんどいなかったのに、最近はちらほらと増えてきた。学校でも時々聞かれることがあるくらいだ。SNSってすごい。
 特に三十代の大人の女性客が増えた。



 のんびりするために来たというそのお客さんは、土に汚れるのもいとわずに、祖父の畑仕事を朝も早くからなにくれと手伝ってくれる。
 そのお礼にと、祖母が母屋の広いお風呂を貸し切りにしてあげると、それはもう喜んでくれた。
 その都会から来たお客さんも、どこかから回ってきたSNSの情報を見て予約してくれたらしい。隠すことなく「イケメン目当て」だと、からからと笑っていた。

「二十代のうちはね、離れたところから眺めているだけでよかったのよ。でも三十代になると、ほんの少しだけ触れて色んなことを確かめたくなるのよねぇ。ほんの少し、指先がかするくらいでいいの」
 いつもはキリッとしている表情を、可愛い感じにゆるめて、照れくさそうに笑っていた。
 特に凜さんが気に入っているらしく、よく一緒にいるところを見かける。それは恋愛的な何かを求めているわけではなく、単純に癒やしなのだと言っていた。時々自分が女なんだってことを自分自身に教えたいからって。

 おまけにイケメンたちは、それなりにエスコートが身についているようで、さりげなく手を貸したり、背を支えたりするものだから、これまた女性客にウケている。
 もとは国の中枢にいた人たちだからか、野良仕事ばかりをしていたわけではないらしい。

「さっちゃんにはまだわからないかもねー」
 そうわざとらしくお姉さんぶった言い方をしたそのお客さんに、思わず頷きを返してしまった。確かに、よくわからない。

 どこからどうみても出来る人という感じのそのお客さんは、身なりも仕草もすごく女らしい。髪の先から爪の先、足の先まできっちりと整えられていて、すごくスタイリッシュだ。
 それなのに、女なんだってことを自分で自分に教えなければわからなくなるものなのか。大人の女の人の考えていることはよくわからない。
 まあ、母を見ていると、女を忘れてるなとは感じるから、歳を重ねていくうちに女の部分を少しずつどこかに落としていくのかもしれない。うちのアレな母は特に。颯、四十代。ただし妙なところでうっかり乙女だ。

「じゃさ、四十代になったらどうなるんだろう?」
「ああなるんじゃない?」
 快の首根っこを掴んで、収穫に無理矢理参加させようとしている母を見て笑うこのお客さん、私と同じ「さよ」という名前だ。小夜里の小夜じゃなく、沙依と書くらしい。なんだか名前まで都会的だ。祖父母が「沙依ちゃん」と呼ぶから、私もつられて沙依ちゃんと呼んでいる。

「夏にまた来てもいいですか?」
 帰りがけにそう言った沙依ちゃんに、祖父母が次はお客としてじゃなく、友達として遊びにおいでと誘っていた。

 祖父母は儲けを考えていない。気に入った人はお客としてではなく友人として招いている。それなのに、常連となる人たちは、ちゃんとお客として来てくれる。
 どういう訳か、うちに来るお客さんに感じの悪い人はいない。祖父母はあのほこらのおかげだと言っていた。今となってみればそうなのかも? とは思う。実際にいるらしき胡散臭い女神様のおかげなのかもしれない。
 うちではお客さんにメールアドレスと本名かどうかもわからない呼び名しか聞かない。それなのに今まで一度もトラブルが起きたことがない。異文化の外国から来るお客さんですらそうだ。
 郷に入っては郷に従えとばかりに、素直に色んなやり方を聞いてそれに倣ってくれる。それを楽しむ人ばかりが来てくれる。わざわざこんな僻地に来るくらいだ、ちょっと変わった人たちなのかもしれない。



「ちょーっ! それレアアイテム! どうやってとったの!」
 最近父が母並みにうるさい。

 イケメンたちは夕食の後、毎日ゲームの攻略に勤しんでいる。もはや仕事かと思うほど、真面目に淡々と攻略していて、娯楽要素がイマイチ足りない。
 彼らは五人纏まって、快がコントローラを持ち、賢さんの指揮のもと、厳さんと凜さんが画面の隅々をチェックして、最終判断を優さんに確認しながら攻略していく。
 およそ取り零すことなく全てのアイテムを回収しながら進んでいくのは、色々おかしい。悩んだり、戻ったり、取り零したりするから面白いのであって、確実すぎるほど確実に進んでいくと、面白くも何ともない。

 最初こそ、ゲーム内の他人の家に無断で入り込み、家捜しすることに戸惑っていた彼らも、一度やってしまえば覚悟を決めたかのように淡々とクリアしていく。

「おそらくこのあたりに宝箱があるはずです」
「快、もう少し右に進め」
 で、本当にあったりするから、色々おかしい。隈無く探すということをせず、ピンポイントで探し当てるのは、中の人なのかと疑いたくなる。
 最初はかくかくしていた昭和の香りのするゲーム画面が、徐々に滑らかになっていき、つい先日、またもや女神様から届いたゲームは、カセットからディスクへと変化し、ついに平成のゲームになった。
 あの魔女っ子なレアゲームも、何てことなくクリアしてみせ、父が頭を抱えていた。

 そのヘタクソな父は、未だ昭和から抜け出せていない。あまりに不憫で、今回母はデータ上書きの悪戯をやめたらしい。それどころか、イケメンたちのやり方を真似て、父に指揮をして父の攻略を手伝っている。
 コミュニケーションとはこういう事をいうのであって、データを上書きすることではないと思う。

「これに何の意味があるんだろうなあ」
 あまりに確実に突き進んでいくイケメンたちの背後から、ゲーム画面だけを見ていると、ゲームというより、ちょっとしたロードムービーにも思えるのが不思議だ。

「颯さんが『立ち上がれ! 勇者よ!』って、この間叫んでましたよ」
 なぜかわくわくした様子で祖母が祖父に答えた。

「おばあちゃん、それなんかのゲームパッケージに書かれた一言だから」
「あらそうなの? 私はまた、今度は勇者が来るのかと思ったわ」
 ここにも母に毒されてきた人がいる。祖父は呆れた顔でお茶を啜った。

「よし、一時間経過。本日の攻略は終了」
 そしてイケメンたちは引き際も鮮やかだ。もう少しやっていてもいいのに。

「サヨリ、今日の課題は?」

 この切り替えのよさもどうかと思う。きっちりとした性格の身内に家庭教師なんて頼むものじゃない。異世界補正を前にすると、真面目に勉強するのが馬鹿馬鹿しくなる。
 だいたい、私は勉強が好きなわけじゃない。やることがなかったからやっていただけだ。他にやることがあれば、勉強なんてしていなかった。

「そういえば、さっちゃん、大学どこにするか決めたの?」
「まだ。あのさ、おばあちゃん、大学って行かなきゃダメなものかな」
「別にいいんじゃない? やりたいことが他にあれば」
「やりたいことがないから大学行くって感じなんだよね」
「儂はそれもありだと思うぞ」
 でも、大学に行くにはお金がかかる。無意味に行くくらいなら、行かなくてもいいのではないかと思ってしまう。やりたいことができてから行くことだってできるだろうし。
 そう話していたら、祖父母は「それでもいい」と笑ってくれた。なぜか、イケメンたちにも頷かれた。

「さっちゃんは、どうしてそうジジクサイの?」
 ジジクサイとはどういうことか。父の攻略が遅々として進まないからって、八つ当たりはどうかと思う。「よっこらしょ」とババクサイ一言を口にしながら隣に座った母に、祖母がすかさずお茶を入れてあげている。嫁姑が仲がいいって平和だ。

「お母さん、せめてババクサイって言って」
「だってさっちゃん、若さがないよ。なんか枯れてる? こないだ沙依ちゃんも『さっちゃんって落ち着いてますよね』って言ってたわよ。それってジジクサイってことでしょ?」
 沙依ちゃんのその一言は、絶対に褒める系の言葉だ。貶す系の言葉じゃない。

 ふと見れば、祖父が微妙な顔してる。祖父は最近「ジジクサイ」という言葉に敏感になっている。父が「オヤジクサイ」に敏感になっているのと同じだ。
 ちなみに母は「オバサンクサイ」に反応しない。妙なところでうっかり乙女だからなのか。自分がオバサンであることに気付いていないのか。気付かないふりをしているのか。多分ふりだ。ふり。ふりふり好きは気付かないふりが得意。ただし母に限る。