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11 生き神「ねえ琥太くん」
「んー……?」
だいぶ長いんーが消え入る直前で小さく跳ねた。どれほど長く伸びても語尾が上がるときは話しかけてもいい合図。
なんてことない休日の昼下がり。
終わりの見えない苛烈な夏は、八月の終わりの声を聞いても秋にその座を譲ろうとしない。
「おざきくんの爪って切ってる?」
「時々ね」
「猫用の爪切りで?」
「いや。人用の爪切りで」
「嫌がらない?」
「仕方ないって感じかな。俺が爪切らせてもらいますって爪切り見せると、渋々膝の上に来てひっくり返るし。少しずつ切っていくとこれ以上はダメってところでひと鳴きするから切りすぎたこともないよ」
トイレのことといい、過去におざきくんを躾けた人はトレーナーか何かだろうか。それとも色んな人から様々な方法で教わってきたのか。
「おざきくんって爪とぎする?」
「しないねえ」
「なんで?」
「さあ。しようと思わないからじゃないの?」
「訊いてみてよ」
「なんで?」
ネットで見付けたかわいい爪とぎが三日後に届くからだ。注文してから、あれ、今までおざきくんってどこで爪とぎしてたっけ、という疑問が今更ながら紫桜の頭に浮かんだ。
「ちょっと気になるから」
「おざきくんが満足するまでちゃんとヤスリがけしているから、爪とぐ必要ないんじゃないの? おざきくんストレスなさそうだし」
ソファーのあっちの端ではノートパソコンに何かを打ち込んでいた琥太朗がぐうっと大きく伸びをした。ソファーのこっちの端で紫桜は仕事先でもらってきた知恵の輪と格闘している。おざきくんは縁側の日陰でぐだっと寝ている。いつものへそ天。野性味ゼロ。
作業が終わったのか、琥太朗がぱたんとノートパソコンを閉じた。
「ねえ紫桜さん」
「なんですか琥太朗さん」
最近二人の間で流行っている呼び方だ。この家の雰囲気に合わせるとこうなる。
「紫桜がついててこの髪型ってどういう意味?」
「今頃? あれから二週間は経ってるよね」
「なんか急に思い出して」
「琥太くんって、私がどんな仕事してるか知ってる?」
急に顔を上げた琥太朗が目を見開いて紫桜を凝視した。
「嘘だろ、俺訊いたことなかったっけ?」
「ないから知らないんでしょ?」
「土日休みだしお盆休みもあったから普通の会社員だと思ってた」
「大抵の人はどこかの会社の社員なんじゃないの?」
「そうだけど……紫桜の会社ってどんな会社?」
「在宅サービスの会社。私はそこで福祉美容師と総務を兼任してる」
「ああ……なるほど、美容師かあ」
溜め息のような声で実際に溜め息まで吐いた琥太朗が、申し訳なさそうに眉を寄せる。
「俺の髪、鬱陶しいよね?」
「正直なことを言えば、もう少し整えた方がいいかなーとは思う」
「だよね」
「でも琥太くんがいいなら別にいいんじゃないかなーとも思う」
「一緒に歩くの嫌でしょ?」
「嫌じゃないけど……琥太くんそんなこと気にしてたの?」
紫桜はようやく納得した。実家への行きも帰りもやけに離れて歩くと思ったのだ。
「私と一緒にいるところ誰かに見られたくないのかと思ってた」
「そんなことない」
「ほら、大学の学生さんとか関係者に見付かったらまずいのかなって」
「俺の方に一切の支障はない」
「琥太くん、自分のヘアスタイル嫌?」
「そりゃあね。ちゃんと切ってもらえるならその方がいいに決まってるけど……」
本人が頬にある痣を気にしている以上、他人がとやかく言うことではないと紫桜は思う。どれほど親しい人がどれほど言葉を尽くしたとしても、本人の意識が変わらない限りどうしようもないことだ。仕事先で出会う様々な事情を抱えている人たちから紫桜は多くを教わってきた。
おそらくメイクで隠すことやレーザー治療等も考えただろう。琥太朗は紫桜が思うよりもずっと広く深く考えてきただろう。
それでも──。
「私は今もきれいだと思ってる。せめて家の中でくらい、髪後ろで結んだら? 琥太くんも鬱陶しいって思ってるんでしょ?」
実際、鬱陶しそうにしていることがちょくちょくあるのだ。この家ではぎりぎりエアコンをつけなくても過ごせる程度には快適でも、日中は身体を動かせばそれなりに汗ばむ。琥太朗が汗をかいた頬や首筋に張り付く髪を鬱陶しそうにぬぐっている場面に紫桜は何度も遭遇している。
「紫桜はアシンメトリーな髪型ってどう思う?」
「右サイドだけ長くて左は短くとか?」
「そうそう。後ろや左はもっと短くしたいんだよね。暑いし」
「で、右は今のまま? それ今以上に悪目立ちしそうだけど、いいの?」
えーっ、と情けない顔をする琥太朗に紫桜は笑い出しそうになる。大学の先生というお堅い仕事にモード系の髪型はどうなのだろう。それとも今は個性のひと言で片付けられるのか。
「それだったら、今の長さでもっとかっこよくできるけど。ちょっと触ってもいい?」
クセを生かして、もう少し軽くして、そうだ、軽いアシンメトリーならいいかもしれない。紫桜は久しぶりに気持ちが昂ぶってくるのを感じた。
大人しく髪を触られている琥太朗は、少し不安そうな顔で紫桜を見上げている。
紫桜は琥太朗の前に立ち、髪質を確かめ、正面を眺め、横顔を眺め、一歩引いて全体を眺める。正面から見る分には痣は輪郭の陰になって目立たない。左の髪を耳に掛け、右の髪がどの程度までだったら痣を隠すのかを確かめ、再び一歩下がってはイメージを膨らませていく。
「どうしよう、琥太くんかっこよくなっちゃう」
元々琥太朗は人目を引くほどの美形ではないものの鼻筋の通ったさっぱりとした顔立ちだ。ほんの少し下がり気味の目尻にくりっとした黒目、笑うとできるえくぼは愛嬌がある。髪型次第でどうにでもなりそうな素材。
琥太朗は自分自身に手を抜いているわけではなく、身だしなみはきちんとしている。眉はナチュラルに整えられているし、ひげはちゃんと毎日剃られている。鼻毛がチラ見えすることもなく、肌荒れもなければ歯並びもいい。口臭を感じたこともない。
「どうしようなの?」
「どうしようだよ。琥太くんがかっこよくなったら、絶対女子大生にモテちゃうもん」
じっと琥太朗に見られて、なに? と紫桜は首を傾げる。
「紫桜もそういうこと言うんだなーって」
「難しいところだよね。かっこよくなるお手伝いはしたいけど、それでモテるのはちょっと困る」
琥太朗は膝の上にのせていたノートパソコンをサイドテーブルに置くと、ソファーに座る自分の隣をぽんぽん叩いた。
「ちょっと紫桜、ここ座って」
なに? っと言いながら紫桜は琥太朗のすぐ隣に腰をおろした。
「ちょっとその位置のままこっち向いて」
なんなの? と呟きながら琥太朗側に身体をひねる。存在の近さに紫桜は顔が赤らむのを感じた。
ふわっと、触れているかいないかのような抱きしめ方だった。しばらくじっと動かずにいた紫桜もそっと、触れるか触れないかくらいの力で琥太朗の背中に腕を回す。少しすると、はっきりと琥太朗の体温が感じられるくらいに彼の腕の力が強まり、同じだけ紫桜も腕に力を込めた。
この互いのつたなさを認め合うような、ゆったりとしたテンポが心地好い。
「俺、髪このままでもいい?」
「いいよ。琥太くんの好きで」
んー……、と長く伸びた語尾の最後に、ぎゅうっと抱きしめられた。紫桜も負けじとぎゅうっと抱きしめ返す。琥太朗の身体はひょろっとして見えて、実際は紫桜をすっぽり包み込めるくらいにはしっかりと大きい。
とんと膝に重さが加わり、おざきくんが二人の間をこじ開けるように居座った。
顔を見合わせ、おざきくんを眺め、同時にぷっと噴き出す。
「おざきくんって……仲間外れは嫌なの?」
ピースフルなしっぽが二人の膝をばしばし叩く。
風の絶えた庭に水を撒き、涼を誘う。
和室の縁側の先には草木に埋もれた小さな小さな泉がある。てっきり水道を引いているのかと思ったら、琥太朗が調べたところ、なんと湧き水だった。洗面器ほどの大きさで、どこにも流れ出ていない。あまり用をなさない水量ではあるものの、その水を糧に周りの草木がよく茂り、泉もその周囲の地面もこんもりとした苔に青々と覆われている。琥太朗が見付けなければ知らずにいたかもしれないほど、そのささやかな水源は緑の中に埋もれていた。手を入れれば手首までしかないような浅い水底には緑の砂が敷きつめられている。感心する琥太朗が言うには、翡翠でできた粗砂らしい。鼻息荒く価値を訊いた紫桜を、琥太朗は「屑石だから二束三文」と呆れ顔で切って捨てた。
紫桜は溜まっている水をひしゃくで掬い、庭に撒いていく。当然庭の全てに行き渡る量ではないので、玄関までの飛び石を湿らす程度だ。大部分は琥太朗が外水栓からホースで水を撒く。
琥太朗が言うには、この庭にはヤモリにカナヘビ、川の周辺にはイモリやサンショウウオも生息しているらしい。虫嫌いの琥太朗だが、爬虫類や両生類は好きらしく、日向ぼっこしているトカゲや壁に張り付くヤモリを見付けては目を和ませている。抜き足差し足で獲物を狙うおざきくんに捕りすぎないよう念を押している。
たっぷりと水を含んだ緑が周囲の温度をすっと下げる。風が起こり、家の中の熱を浚って涼が通り抜けていく。縁側の犬走りには庭のパトロールを終えたらしきおざきくんの肉球の跡が残っていた。
「そういえば琥太朗さん」
「なんだい紫桜さん」
「あの黒い石、父に返してよかったの?」
紫桜が怖くなって琥太朗に渡した黒い石を、琥太朗は帰り際に母に託した。琥太朗が説明するひずみがどうのこうのを母もわけのわからない顔で聞いていた。そのままお父さんに伝えればいいのね、と母は頼りなさそうな顔をして、石に直接触れないよう古くなった根付けの先を摘まんでいた。
「よかったのって、あれは紫桜のお父さんの石だから。紫桜こそ今更?」
「なんか、おざきくんの背中の黒い模様見てたら思い出した。ねえ、ひずみって何?」
おざきくんは縁側のパトロールを終え、今は家の中のパトロール中だ。リビングの網戸に簡易的に取り付けた猫用の出入り口がなかなかいい仕事をしている。
「ああ。ちょっとゆがんでたんだよ」
「何が?」
「石が」
「石ってゆがむの?」
「ゆがむんだよ」
紫桜は、へーえ、とわかったような顔をしながら全くわかっていなかった。パワーストーン的な何かだろうか。
「例の第六感ってやつ?」
「そんな感じ」
あの日、ハシゴを下りていくとおばたちが一致団結して紫桜と琥太朗を逃がしてくれた。母曰く、天埜の嫁たちは時に脅威の団結力を発揮する。だからといってそれまで以上に仲が良くなるわけではないらしい。事が終わると途端に互いを牽制し合い、隙あらば足を引っ張り合うのが常で、ただ、ふと魔が差したようにがしっと一つに纏まることがあるらしい。
『ゆかりが子供たちの面倒を文句も言わずに見てくれてたから、その恩返しのつもりなんじゃないかしら』
後日、母は電話で当てずっぽうを言っていた。親戚の男たちの間では、紫桜たちは琥太朗の力で消えたことになっているらしい。馬鹿馬鹿しいにもほどがある、と母は吐き捨てていた。『あやしい新興宗教ってああいう気持ち悪い人たちの馬鹿馬鹿しい思い込みで成り立っているんじゃないかしら』とまで言っていた。
「琥太くんとか美織さんって宗教作れそうだね」
ほんの軽い気持ちで言った紫桜の隣で、琥太朗の身体がびくっと身動いだ。
「実際、生き神に仕立て上げられそうになったんだよ」
「誰が?」
「俺が」
「うそっ! なんで? あっ、なんだっけ、ミツチ? だから?」
「そうなんだろうね」
自分の軽い発言がよからぬ何かを浮かび上がらせてしまった。紫桜は動揺しながらも強張ったままの琥太朗の手に触れた。ひんやりとした肌だった。
何かを言いかけて、何を言おうとしていたのかがわからなくなって、紫桜は黙り込んだ。
琥太朗の口振りはいつも一貫している。ミツチを厭っている。紫桜は今の琥太朗を知りたいのであって、琥太朗の過去を探りたいわけではない。
とはいえ、気になるものは気になる。ちらっと琥太朗を盗み見たらばっちり目が合ってしまった。
「大したことじゃないんだ。狭知の家では男が七歳を超えて生きることは珍しいらしい。それで俺は母親の手によって東北に隠された。でも爺さんが突然死んで、俺の身寄りが一旦行政に預けられることになって、そのせいで俺の存在が泉にバレて、すんでの所で母親の知り合いに助けられて、また別の場所に隠されて……奴等が考える儀式年齢を超えてようやく普通に生きる権利を与えられたってだけ。単に隠れて生きてきたってだけだよ」
「儀式年齢って?」
「数えで十七。十七歳を超えるとチを失うってことらしい」
「チ? 血のこと? 血統とかそういう意味?」
「まあそうだね。チは命そのものというか、古代では精霊のことをチと呼んでいたと考えられている」
「古代って、神話の時代とか?」
「もう少し昔。その名残が神話の神の名前にもなるくらい昔」
「じゃあ、ミツチが水の精ってことは、水のチってこと?」
「そう。雷のことイカヅチって言うだろ、大蛇のことをオロチとか、刀のタチもそう」
「もしかして、狭知も?」
「そう。福を招くって意味」
「あ、だから、生き神?」
「そういうこと。狭知に男が生まれることは珍しくて、ましてや生き延びることは奇跡で、だから狭知の男にはミツチが宿ると謂われている」
遠くを見るように目を細める琥太朗は、天埜の家で感じたときと同じ冷気を纏っていた。
母親の手で隠されて、母親の知り合いの手で再び隠される。きっと琥太朗の母親はもういないのだろう。隠れて生きるというのはどんな生活だったのか。隠れなくていいとわかったときの開放感はどれほどだったのか。
「俺、紫桜に再会したとき、ものすごくがっかりしたんだ」
えっ、と紫桜の身体が強張る。触れていた琥太朗の手から逃げようとした紫桜の手が、琥太朗の手に捕まった。
「結局俺は、ミツチに縛られて生きるしかないんだなって」
「天埜の家……」
「そう。紫桜って天埜の家の人間だったんだあ、なら仕方ないなって」
紫桜は琥太朗の射貫くような視線に怯みはしても逃げはしなかった。
紫桜だって何も好き好んで天埜の家に生まれたわけではない。両親や祖父母のことは好きでも、天埜の家とは関わりたくない。
「なら仕方ないね」
紫桜の強気の発言に、琥太朗の気配がふわっと緩んだ。
「俺紫桜のそういう土壇場での強さが好き」
「開き直ってるだけ。だってしょうがないでしょ、生まれる場所を選べるわけじゃないんだから」
「しょうがないよね、俺も紫桜も」
きっと両親も祖父母も、そうやって生きてきたのだろう。生まれた家を嫌い、好きになった人の家を疎み、親の家を厭う。精一杯抗いながら大切なものを守ってきた。
「琥太くんって、私のこと探してた?」
「探してたよ。でも、簡単には見付からないだろうって半ば諦めてもいた。紫桜が望まなければ会えないだろうし、紫桜は俺のこと忘れてるだろうって」
「なんで?」
「石持ってただろ。あの石が紫桜を守ってた。当時は何が紫桜を守ってるかわからなかったし、人って案外色んなものに守られてるからあの頃の俺では特定できなかったし」
「ねえ、もしかして……子供の頃、私が琥太くんに会いたいって思ったときに琥太くんが現れてたのって……」
「たぶん、石の力だろうね。この家と同じで、紫桜に呼ばれないと紫桜にたどり着けなかったんだよ。俺の都合で会いに行っても絶対に紫桜とは会えなかったから。あの頃は単に運が悪いだけだって思ってたんだけど、今は隠されてたんだってわかる」
「身に付けていたわけでもないのに?」
「それでも身近にあっただろ。たぶん眠る部屋にあったはずだ」
子供の頃の宝物箱も大人になってからのジュエリーケースも、いつもベッドの脇に置いていた。
「私に友達ができなかったのも石のせいなの?」
「それは違うかな。隠されてたのはミツチに連なる人間だけだから」
かわいそうなものを見るような琥太朗の目がむかつく。
人見知りは自分でもなんとかしたいと思いながらも何ともできなかったのだ。未だに苦労している。肩身の狭い思いをしたり、淋しさに喘ぐ日もある。一方で、無理に同調する機会が少なかったことから、伸び伸びといられた部分もある。期間限定だからこそ、それなりに仲良くできた人もいたし、我慢できることの方が多かった。
「じゃあ、この家の前で会ったのは?」
「だから、ものすごい偶然なんだって。うちの教授から見てほしい家があるって聞いてたんだけど、元々あの日は別の用事が入ってたんだよ。しかもおっさん二人の話はいつも長いし、一日潰れるの覚悟しなきゃなんないし、どうせ見たあとは飯だ酒だって付き合わなきゃなんないし、実際に何かありそうだってわかってから改めて見に行けばいいんじゃないかって思ってたんだけど」
「教授のぎっくり腰?」
「そう。しかも先方はその日以外なら話を受けないって聞いてたし」
「だって、家見せてくださいって言われて、どうぞどうぞって見せる人って少なくない?」
「そうでもないんだけどね。案外見せたがりの人はいる」
「そうなの? 私なら絶対に嫌だなあ。お世話になった弁護士先生からの話じゃなかったら絶対に断ってた」
「この家のことを知ってる高山先生は信用できる人だと思う。逆を言えば、うちの教授はもしかしたらこの家に拒まれたのかもなあ」
「なんで?」
「起き上がれないほどのぎっくり腰が次の日にはけろっと治ってたから」
「こわっ」
「ぎっくり腰になったのは偶然だろうけどね。そこまでの力はないから」
「なんだ、もう、びっくりする」
「でも、そういう都合のいい偶然を招くのもチの力だと言われている」
「その教授がぎっくり腰にならなくても何らかの都合でうちには来れなかったってこと?」
「そういうこと」
「じゃあ、琥太くんがうちに来たのも?」
「あの前に俺のこと思い出さなかった?」
「思い出したかも。でも琥太くんの記憶ってなんか薄らぼやけててはっきりしなくて、琥太くんに会ってようやく色々思い出せたって感じ?」
「だろうね。俺ミツチのど真ん中の人間だもん。紫桜の大叔母さんにしてみれば排除したい人間ナンバーワン」
「あ、そっか」
ミツチのど真ん中の人間だからこそ、石の力に負けずに出会えたのかもしれない。
「紫桜が俺のことを忘れなかったから、再会できたんだよ」
琥太朗がおっとりとした穏やかな笑みを浮かべるのを見て、紫桜は繋がれたままの互いの手をそれまで以上に意識した。