時の間の邂逅
十一月七日土曜日。加納家にて。


「はいこれ、借りていたルームウェア。九年前のだけどまだ着られるよね」
「ありがと。うん、あれからたいして身長伸びなかったし」
「でも少し伸びたよね」
「少しね。今は178だよ」
「そっか、それでね、私の下着が代わりに残されてたんじゃないかと思うんだけど……」
「あー、うん。ちょっと待ってて」

「はいこれ」
「あっ、コンビニで買った物は全部残ってたんだ」
「そうみたい」
「歯磨きセットとスキンケアセットはもう使えないなぁ。ボディタオルは使えそう」
「じゃあうちにそのまま置いておきなよ。お泊まりする時に使えばいいよ」
「いいの? またお泊まりして」
「もちろん」
「あのね、なんでひとつずつ真空パックになってるの?」
「親父がフードシーラー持ってたんだよ」
「そうなの? 使ってみたいかも」
「キッチンのどこかにあるはず」
「あとで探してみてもいい?」
「いいよ」
「それでね、下着は? まさか、下着も真空パック?」
「そのまさか。これ……」
「なんで? なんで! なんで?」
「なんって言うか、風味を残そうと思って」
「風味? なんの?」
(あや)の」

「分かるよ、分かる。引くよな。今の俺も引くから。でもあの時の俺は必死だったんだよ」
「これ、ブラの形まで綺麗に真空パックされてるけど、普通こんなに綺麗にカップの形が残るものなの?」
「いや、これめちゃくちゃ苦労したんだよ! 普通にやるとぺったんこのくっちゃくちゃになるから、いかにカップの形を上手く残せるか、何回もやり直したんだ!」
「ごめん、今の(りょう)も引く」





十一月九日月曜日。社会科準備室にて。


「──ってことがあったんですよ」
「だから言っただろう、こじらせてるって」
「そうですけど、佐山先生親友でしょ、九年間も放置しないでくださいよ」
「あのな、さすがに俺だってお前の下着の真空パックまでは知らんわ。ってか変態だな。こじらせてるってより患ってるって感じか?」
「ですよね。ちょっと引きますよね」
「……おい、ちょっとなのか?」
「何がです? それより佐山先生、フードシーラーって面白いですよね。これ、昨日作ったクッキーのお裾分けです」
「お前そのまま泊まったのか……おおっ、見事に真空だな」
「ですよね。すっごく楽しいんですよ」
「で、このクッキー並べたのは加納だな」
「すいません。止めたんですけど……」
「井上もそう思ってるのか?」
「へ? ゴリ山ですか? 思ってませんよ」
「しかも端に気弱なってマジックで書いてあるのは何なんだよ」
「本当すいません」
「……俺な、高校の時のあだ名がこれだったんだよ」
「先生ガタイいいですもんね。どうして体育教師にならなかったんですか?」
「……運動音痴なんだよ」
「うそ。無駄筋肉?」
「無駄言うな。筋肉が付きやすい体質なだけなんだよ」





十一月十四日土曜日。加納家にて。


「──って事を聞いたの」
「そうなんだよ、あいつすげえガタイいいから、格闘技とかやってるのかと思うんだけど、まるで運動はダメでさ。おまけにあのガタイのくせして気弱だし」
「でも、うちのクラスでは結構女子に人気なんだよ。クマさんみたいって。だからゴリラってよりクマって感じだなって思ってたの」
「マジか! それ佐山に言った?」
「言ってないけど、なんで?」
「言うなよ。あいつそう言うのもダメなんだよ。間違いなくきょどるから言わない方がいいぞ」
「そうなの?」
「ほら昔、アニメ映画でモンスターが子供を怖がらせるのがあっただろう? あの主人公のモンスターに似てるってクラスの女子が騒ぎ出したことがあるんだよ」
「あの相棒が緑の一つ目の?」
「そう。で、女子たちからちやほやされてやっかまれるかと思いきや、激しく挙動不審になった挙げ句、ストレスで胃が痛いとか言い出して、むしろみんなに同情されて女子の視線から庇われてた位なんだよ」
「ちょっとヘタレ過ぎるね」
「ちょっとどころじゃないだろう? あいつな、すげえ繊細なんだよ。傷付けないよう周りが注意してやんなきゃダメなんだよ」
「でももういい大人でしょ?」
(あや)、大人でも傷付くんだよ。むしろ大人になって出来た傷は治りにくいんだ」
「そうなの?」
「そうなの」
「この前無駄筋肉って言っちゃった」
「あー……また今度差し入れ持ってってあげて」
「わかった」



「もしまた過去に行ってしまったらどうしよう」
「ん? そしたらまた俺んとこに来ればいいよ」
「なんで過去に行ったのかなぁ」
「さあ。たまたまじゃない? そういう科学で証明出来ないことは考えても仕方ないよ」
「なんか、軽いね」
「俺にとっては(あや)と出会えたことだからね。悪いことでもない」
「んー…そうだけど、なんか釈然としない」
「なら佐山に聞いてみれば? あいつそういう不思議系、結構好きなんだよ」
「そうなの? あ、そう言えばUFO研究部の顧問だった気がする」
「何そのコアな部活」
「あれ? 同好会だったかも。なんか屋上でUFOを呼ぶ儀式とかしてるらしいよ」
「あー…それ俺たちもやった」
「そうなの? 流行ったの?」
「なんか地味に流行ったんだよ、俺たちの周りで」
「学校の七不思議的な?」
「そうそう。確か佐山が一番熱心だった気がする。俺の話は信じなかったくせにUFOは信じるんだから、なんだよって思ったんだよなぁ。あー、佐山にその話すると長くなるから、しない方がいいかも」
「んー、わかった」

posted on 14 November 2015

© iliilii